一事不再理
こんばんは。
コミティア原稿ですがやっとプロットが終わり、ネーム作成に入りました。
いや入ろうとしているところです。
なんとか週末までには終わらせるはず。
日本シリーズの最後、アレかよ。
もやもやしながら雑談更新。
◇
先日の「相棒」なかなか面白かったです。
「冤罪被害者が殺された?」から「一時不再理」を持ち出してくるとは。
公式サイトのあらすじです。
出版社に勤める長谷川(夙川アトム)という男性が自室で殺害された。室内が派手に荒らされていたことから、捜査一課は強盗殺人の線で捜査を始める。
しかし、長谷川は3年前、強盗殺人の容疑者として裁判にかけられたものの、人権派の女性弁護士・永井多恵(片岡礼子)の手腕もあって、無罪となった人物であることが判明。
さらに、今回の現場マンションが巨大な密室状態になっていることを知った右京(水谷豊)は、そこにミステリーを感じ、享(成宮寛貴)と共に独自の捜査を開始する。
その後、多恵が裁判後も長谷川と交流を持っていたという情報を得た2人は、彼女から事情を聞く。そんな中、3年前の強盗殺人の“真犯人”とされていたホームレスが無実だった可能性が浮上して…!?
以下ネタバレです。
3年前の強盗殺人では長谷川と被害者の関係性が無いという理由で無罪になっていました。その後、病死したホームレスのねぐらから被害者の時計が見つかったことで、ホームレスは「真犯人」と目されていたのですが、右京たちの調べによって長谷川と被害者女性に接点がある可能性がでてきます。
調査を進めるうちに長谷川と勤務先の社長との間に揉め事があったことがわかります。
長谷川は「冤罪で裁判にかけられそして無罪となった」経緯を本にして出していました。そのきっかけで現在の出版社に勤務することになったのです。
ところが長谷川は実は自分が真犯人だと語ります。
「あの女がウソをついたから殺した」んだと。
さらにあろうことか「暴露本」の出版を持ちかけたのです。
自分はすでに無罪となっている。「一事不再理」の原則により、もう罰せられることは無いと。ここで自分が本を出せばマスコミも世間も大騒ぎで、きっとバカ売れすると。
そんなことをすれば法律上はともかく日本にはいられないだろう、と思うのですが、長谷川の自宅には海外の不動産のパンフレットがありましたので、大金を手に入れたら日本を離れて暮らすつもりだったようです。抜け目無い。
さて真犯人であることを隠して「冤罪で裁判にかけられた」とウソをつかれて裏切られた社長はカッとなって長谷川を殴りました。長谷川は他の出版社に頼むと捨て台詞を吐いて出て行きます。
社長は良心の呵責に耐えかね、3年前の被害者女性の父親にその事実を手紙で記しました。
怒り狂った父親は長谷川に掴みかかりますが、脳梗塞の後遺症で満足に歩くこともできず、まったく相手になりません。突き飛ばし、せせら笑う長谷川。もはや法律でヤツを罰することはできないのか。
そこで父親はいわゆる「闇サイト」に殺人を依頼します。
そして指定されたという口座に400万円を振り込みました。
長谷川を殺したのは「闇サイトの暗殺者」でしょうか?
そうではありませんでした。
犯人は弁護士の永井でした。
永井は3年前の強盗殺人での弁護の際、長谷川自身が自らの殺害を告白しているにもかかわらず、弁護士としての手柄、野心の為に無罪を主張するようにそそのかしました。そして永井の手腕によって見事、真犯人が「無罪」となったのです。「冤罪を防いだ人権派弁護士」としての名声が高まりました。
今になって長谷川に「自分が真犯人でした」なんて本を出されては、すべてが終わりだ。そう考えた末の保身による犯行だったのです。
◇
「一事不再理」とは?
ある事件に対して確定した判決が出ている際には、その事件に対して再度審理することを認めないという原則です。
憲法39条が元になっています。
「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。」
前文の前半部分は「法の遡及効果を認めない」というものです。
今年施行された法律に、去年違反していても、罪にはならないということ。
ここでは前文後半部分の話。
ちなみに「裁判のやり直し」自体はあります。
再審制度です。
これは有罪判決を受けている者が有益になる場合だけが利用できます。
死刑が確定している死刑囚が「再審請求をした」というはよく聞かれるでしょう。再審の準備には新たな証言、証拠などが必要です。再審請求をしたからといって、死刑執行が停止するわけではありません。
また懲役刑でも服役を終えてから自らの名誉を回復する為に再審請求をするパターンもあります。小さなところでは交通違反などでもできます。やっていないスピード違反を再審で覆して無罪とかもあります。
相棒の長谷川の場合、逆です。
「既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」
無罪判決を受けた者が、新たな証拠、証言により「犯人」であったことが明確だったとしても、その者を同じ罪で再度訴追することはできません。日本ではそうなっています。
今回の相棒では、自分の罪を認めながらも弁護士に唆されて無罪を主張した犯人が本当に無罪となり、あつかましくも「冤罪を着せられた自分」として本を出しつつも、その後「やっぱ自分が犯人でした」などという本を出そうとします。
法制度をうまく利用してますが、こいつはゲロ以下のにおいがプンプンしてますねえ。少なくとも改悛の情は見られないし、世間から自分がどう思われるかなど全く気にしていないようです。
長谷川は弁護士に殺されましたが、もしそうならなかったとしても、果たして本は出せたでしょうか。罪を免れた「殺人犯の手記」を出版することは、出版社としては会社のイメージを強く損なうリスクがあるでしょう。メディア側としても悲劇の主人公として振舞っていたくせに、と嫌悪感を抱きそうなものです。
「この本の売り上げの一部は公益社団法人犯罪被害者支援センターに寄付されます」とか、お茶を濁すかな。受け取りを拒否されそうですが。
さてもう一つの気になったポイント。
3年前の被害者女性の父親は何らかの罪になるのか。
確たる殺意を持って、第3者に殺人を依頼し、代価を支払いました。
もし闇サイトの人間が長谷川を殺していたら、殺人の共同正犯です。闇サイトの実行犯とともに殺人罪として起訴されることになります。
しかし金は払ったものの、その依頼が実行される前に、別の人間がターゲットを殺害してしまいました。では、無罪になるのでしょうか?
実は刑法201条に「殺人予備罪」というものがあります。
「殺人の罪を犯す目的で、殺人の予備をする」ということです。
例えば凶器を携えた状態で殺害予定の人物の住居を下見に行くとか、毒殺のための毒薬を調達する行為などがあたります。ゴルゴ13が銃で狙いをつけるため、ターゲットの住居の窓が見える近くのホテルの部屋を借りる行為も予備罪になるのかもしれません。
闇サイトに依頼し、お金を払うことが予備罪にあたるでしょうか。
その為には闇サイトの管理人から任意で話を聞く必要がありますね。
その管理人に、実際に長谷川の自宅を下見していたとか、殺害方法をすでに計画していたなど具体的に殺人を遂行する意図や証拠があれば、管理人は殺人予備罪に問われますし、父親も殺人予備罪の共同正犯となるでしょう。
しかし当然、闇サイト管理人は殺意を否定すると。
「殺人の請負なんて冗談じゃないと思った。金は返すつもりだった」などと供述するのではないでしょうか。
こうなると不能犯ということになるのかなぁ。
例えば「殺したい相手の名前をこのノートに書くと、その相手は死ぬ」と言われ、それを信じて本気で殺したい相手の名前を書き込んだ人は、殺人未遂に問われるかというと、問われません。
例えば「これを料理に少しだけ混ぜて毎日食べさせると、その者は衰弱して死に至る、東洋の毒薬だ」と言われ、本当はただの小麦粉のそれを嬉々として買い、憎い姑の食事に混ぜ続けた若嫁は、殺人未遂に問われるかというと、問われません。
なぜかと言うと「その方法では絶対に殺害できないから」です。
これを不能犯といい、罪にはあたらないことになっています。
いや「闇サイトの管理人」に「殺人を依頼する」のは「殺害という結果が起こりえない」と断言できるか、となると判断が難しいですね。法律家の方にもうお任せします。
あと父親が支払ってしまった依頼金400万はどうなるのでしょうか。
「賭けマージャンでの負け金は実は払わなくていい」という通説があります。
これは本当で、賭けマージャンは賭博罪として法律で禁止されていることです。法に触れる行為についての金の取立てを認めてしまっては、国家として本末転倒になります。よって法律上は無効となります(まあ友人関係は壊れるでしょうけど)。
えっじゃあ今まであいつに賭けマージャンで負け続けて払い続けていた金はなんだったんだ!返してもらおう!というのもやっぱり無効です。違法な原因によって支払った金の返還を求めることはできません。
これを前提とすると「殺人依頼」という不法行為の「報酬」は、依頼が完遂されなくても、返還を法に則って要求することはできなさそうです。「詐欺罪」で闇サイト管理人を告訴することも当然無理でしょう。
なんと今回の意外な勝ち組はなにもせずに400万もらって合法的にトンズラできる闇サイト管理人ということになりましたw
ではでは。
コミティア原稿ですがやっとプロットが終わり、ネーム作成に入りました。
いや入ろうとしているところです。
なんとか週末までには終わらせるはず。
日本シリーズの最後、アレかよ。
もやもやしながら雑談更新。
◇
先日の「相棒」なかなか面白かったです。
「冤罪被害者が殺された?」から「一時不再理」を持ち出してくるとは。
公式サイトのあらすじです。
出版社に勤める長谷川(夙川アトム)という男性が自室で殺害された。室内が派手に荒らされていたことから、捜査一課は強盗殺人の線で捜査を始める。
しかし、長谷川は3年前、強盗殺人の容疑者として裁判にかけられたものの、人権派の女性弁護士・永井多恵(片岡礼子)の手腕もあって、無罪となった人物であることが判明。
さらに、今回の現場マンションが巨大な密室状態になっていることを知った右京(水谷豊)は、そこにミステリーを感じ、享(成宮寛貴)と共に独自の捜査を開始する。
その後、多恵が裁判後も長谷川と交流を持っていたという情報を得た2人は、彼女から事情を聞く。そんな中、3年前の強盗殺人の“真犯人”とされていたホームレスが無実だった可能性が浮上して…!?
以下ネタバレです。
3年前の強盗殺人では長谷川と被害者の関係性が無いという理由で無罪になっていました。その後、病死したホームレスのねぐらから被害者の時計が見つかったことで、ホームレスは「真犯人」と目されていたのですが、右京たちの調べによって長谷川と被害者女性に接点がある可能性がでてきます。
調査を進めるうちに長谷川と勤務先の社長との間に揉め事があったことがわかります。
長谷川は「冤罪で裁判にかけられそして無罪となった」経緯を本にして出していました。そのきっかけで現在の出版社に勤務することになったのです。
ところが長谷川は実は自分が真犯人だと語ります。
「あの女がウソをついたから殺した」んだと。
さらにあろうことか「暴露本」の出版を持ちかけたのです。
自分はすでに無罪となっている。「一事不再理」の原則により、もう罰せられることは無いと。ここで自分が本を出せばマスコミも世間も大騒ぎで、きっとバカ売れすると。
そんなことをすれば法律上はともかく日本にはいられないだろう、と思うのですが、長谷川の自宅には海外の不動産のパンフレットがありましたので、大金を手に入れたら日本を離れて暮らすつもりだったようです。抜け目無い。
さて真犯人であることを隠して「冤罪で裁判にかけられた」とウソをつかれて裏切られた社長はカッとなって長谷川を殴りました。長谷川は他の出版社に頼むと捨て台詞を吐いて出て行きます。
社長は良心の呵責に耐えかね、3年前の被害者女性の父親にその事実を手紙で記しました。
怒り狂った父親は長谷川に掴みかかりますが、脳梗塞の後遺症で満足に歩くこともできず、まったく相手になりません。突き飛ばし、せせら笑う長谷川。もはや法律でヤツを罰することはできないのか。
そこで父親はいわゆる「闇サイト」に殺人を依頼します。
そして指定されたという口座に400万円を振り込みました。
長谷川を殺したのは「闇サイトの暗殺者」でしょうか?
そうではありませんでした。
犯人は弁護士の永井でした。
永井は3年前の強盗殺人での弁護の際、長谷川自身が自らの殺害を告白しているにもかかわらず、弁護士としての手柄、野心の為に無罪を主張するようにそそのかしました。そして永井の手腕によって見事、真犯人が「無罪」となったのです。「冤罪を防いだ人権派弁護士」としての名声が高まりました。
今になって長谷川に「自分が真犯人でした」なんて本を出されては、すべてが終わりだ。そう考えた末の保身による犯行だったのです。
◇
「一事不再理」とは?
ある事件に対して確定した判決が出ている際には、その事件に対して再度審理することを認めないという原則です。
憲法39条が元になっています。
「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。」
前文の前半部分は「法の遡及効果を認めない」というものです。
今年施行された法律に、去年違反していても、罪にはならないということ。
ここでは前文後半部分の話。
ちなみに「裁判のやり直し」自体はあります。
再審制度です。
これは有罪判決を受けている者が有益になる場合だけが利用できます。
死刑が確定している死刑囚が「再審請求をした」というはよく聞かれるでしょう。再審の準備には新たな証言、証拠などが必要です。再審請求をしたからといって、死刑執行が停止するわけではありません。
また懲役刑でも服役を終えてから自らの名誉を回復する為に再審請求をするパターンもあります。小さなところでは交通違反などでもできます。やっていないスピード違反を再審で覆して無罪とかもあります。
相棒の長谷川の場合、逆です。
「既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」
無罪判決を受けた者が、新たな証拠、証言により「犯人」であったことが明確だったとしても、その者を同じ罪で再度訴追することはできません。日本ではそうなっています。
今回の相棒では、自分の罪を認めながらも弁護士に唆されて無罪を主張した犯人が本当に無罪となり、あつかましくも「冤罪を着せられた自分」として本を出しつつも、その後「やっぱ自分が犯人でした」などという本を出そうとします。
法制度をうまく利用してますが、こいつはゲロ以下のにおいがプンプンしてますねえ。少なくとも改悛の情は見られないし、世間から自分がどう思われるかなど全く気にしていないようです。
長谷川は弁護士に殺されましたが、もしそうならなかったとしても、果たして本は出せたでしょうか。罪を免れた「殺人犯の手記」を出版することは、出版社としては会社のイメージを強く損なうリスクがあるでしょう。メディア側としても悲劇の主人公として振舞っていたくせに、と嫌悪感を抱きそうなものです。
「この本の売り上げの一部は公益社団法人犯罪被害者支援センターに寄付されます」とか、お茶を濁すかな。受け取りを拒否されそうですが。
さてもう一つの気になったポイント。
3年前の被害者女性の父親は何らかの罪になるのか。
確たる殺意を持って、第3者に殺人を依頼し、代価を支払いました。
もし闇サイトの人間が長谷川を殺していたら、殺人の共同正犯です。闇サイトの実行犯とともに殺人罪として起訴されることになります。
しかし金は払ったものの、その依頼が実行される前に、別の人間がターゲットを殺害してしまいました。では、無罪になるのでしょうか?
実は刑法201条に「殺人予備罪」というものがあります。
「殺人の罪を犯す目的で、殺人の予備をする」ということです。
例えば凶器を携えた状態で殺害予定の人物の住居を下見に行くとか、毒殺のための毒薬を調達する行為などがあたります。ゴルゴ13が銃で狙いをつけるため、ターゲットの住居の窓が見える近くのホテルの部屋を借りる行為も予備罪になるのかもしれません。
闇サイトに依頼し、お金を払うことが予備罪にあたるでしょうか。
その為には闇サイトの管理人から任意で話を聞く必要がありますね。
その管理人に、実際に長谷川の自宅を下見していたとか、殺害方法をすでに計画していたなど具体的に殺人を遂行する意図や証拠があれば、管理人は殺人予備罪に問われますし、父親も殺人予備罪の共同正犯となるでしょう。
しかし当然、闇サイト管理人は殺意を否定すると。
「殺人の請負なんて冗談じゃないと思った。金は返すつもりだった」などと供述するのではないでしょうか。
こうなると不能犯ということになるのかなぁ。
例えば「殺したい相手の名前をこのノートに書くと、その相手は死ぬ」と言われ、それを信じて本気で殺したい相手の名前を書き込んだ人は、殺人未遂に問われるかというと、問われません。
例えば「これを料理に少しだけ混ぜて毎日食べさせると、その者は衰弱して死に至る、東洋の毒薬だ」と言われ、本当はただの小麦粉のそれを嬉々として買い、憎い姑の食事に混ぜ続けた若嫁は、殺人未遂に問われるかというと、問われません。
なぜかと言うと「その方法では絶対に殺害できないから」です。
これを不能犯といい、罪にはあたらないことになっています。
いや「闇サイトの管理人」に「殺人を依頼する」のは「殺害という結果が起こりえない」と断言できるか、となると判断が難しいですね。法律家の方にもうお任せします。
あと父親が支払ってしまった依頼金400万はどうなるのでしょうか。
「賭けマージャンでの負け金は実は払わなくていい」という通説があります。
これは本当で、賭けマージャンは賭博罪として法律で禁止されていることです。法に触れる行為についての金の取立てを認めてしまっては、国家として本末転倒になります。よって法律上は無効となります(まあ友人関係は壊れるでしょうけど)。
えっじゃあ今まであいつに賭けマージャンで負け続けて払い続けていた金はなんだったんだ!返してもらおう!というのもやっぱり無効です。違法な原因によって支払った金の返還を求めることはできません。
これを前提とすると「殺人依頼」という不法行為の「報酬」は、依頼が完遂されなくても、返還を法に則って要求することはできなさそうです。「詐欺罪」で闇サイト管理人を告訴することも当然無理でしょう。
なんと今回の意外な勝ち組はなにもせずに400万もらって合法的にトンズラできる闇サイト管理人ということになりましたw
ではでは。
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